図鑑を見ることは楽しい。どんな人も、子供のときに図鑑をひもといて、生物の形や色のすばらしさに魅了された体験をおもちだろう。わたしもその幸福な一員であり、昭和30年代から50年近くも海水魚の図鑑に魅せられつづけてきた。それで、いつかは自分の手で図鑑を作りたいと思うようになった。そして、今、ほぼ半世紀前に夢みたことがようやく実現することになった。じつは、私がつくりたかったのは、海水魚に関する最新の情報図鑑ではない。海の生物と長く付き合ってきて折々に体験した感動やら疑問やら驚きやらの集大成なのである。本書をワンダー図鑑と銘打った理由もそこにあった。想像力を刺激する図鑑は、何年経っても価値が劣化しない。そこで私は、物語であり博物学のような解説と、絵のような写真とを組み合わせることに腐心した。重労働だったが、これ以上は望めない至福の毎日でもあった。この図鑑はそうしてできあがった。ーー荒俣宏
荒俣宏 あらまた・ひろし
博物学者・小説家・翻訳家。武蔵野美術大学客員教授。1947年7月12日、東京生まれ。血液型はB型。1970年、慶應義塾大学法学部卒業後、コンピュータ・プログラマーとしてサラリーマン生活を送るかたわら、雑誌「怪奇と幻想」を編集。英米幻想文学の翻訳・評論と神秘学研究を続ける。独立後に取り組んだ小説『帝都物語』シリーズ(角川書店)は350万部のベストセラーとなり、1987年に日本SF大賞を受賞。1989年 『世界大博物図鑑第2巻・魚類』(平凡社)で、サントリー学芸賞受賞。なお、日本で初めての博物図譜集『世界大博物図鑑』は1994年に全5巻・別巻2で完結した。そのほか、おもな著書に『別世界通信』(ちくま文庫)、『大博物学時代』(工作舎)、「荒俣宏コレクション」シリーズ(集英社文庫)、『新編 帯をとくフクスケ』(中公文庫)、『アラマタ図像館』(小学館文庫)、『奇想の20世紀』(NHK出版)、『妖怪大戦争』(角川書店)、『帝都幻談』(文藝春秋)など。『アンデルセン童話集』(新書館)など訳書も多数。なお。磯魚関連の共著書に『磯あそびハイパーガイドブック』(小学館)、『磯採集ガイドブック』(阪急コミュニケーションズ)などがある。